ホテルにとってのデジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉をご存じですか?
最近よく耳にするな、と思う方も多いでしょう。
それもそのはず。2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を策定し、国をあげてDXを進めていく方針を固めたのです。経産省によると、DXを実現できなければ、日本は年間12兆円にものぼる大きな経済損失を生じうるとも指摘しています。
このような時流の中、ホテルも他人事ではありません。いち早くDXを進め、新しい時代に適応していく必要があるのではないでしょうか。
この記事でDXの理解を深め、あなたのホテルに合ったデジタルトランスフォーメーションを模索するきっかけとしてください。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
デジタルを活かした変革
経産省によるとDXの定義は下記の通り。
”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”
出典:経済産業省
すなわち、DXとは「デジタル技術を活かして、ビジネスモデルや組織を変革すること」を意味します。そしてDXを行う目的は「企業の競争力を強くし、変化の激しい時代を生き抜くこと」です。
ちなみに、デジタルトランスフォーメーションの略語はなぜ「DX」なのかと不思議に思いませんか?英語ではDegital Transformationなので頭文字を取れば「DT」ですよね。
しかし、英語圏では接頭語「trans-」を「X」で表現することが慣習となっています。だからデジタルトランスフォーメーションの略語は「DX」になったわけです。
単なるデジタル化とは違う
ここで疑問に思うのは、「デジタル化」との違いですね。
デジタル化は、業務効率化を目的としたデジタルツールの導入を意味します。
既存の業務やサービスを紙ベースからデジタルベースへ変換したり、複数のシステムを連携させたりして、業務の効率化を図ることです。
一方DXは、デジタル化したことで得たデータや最新のデジタル技術(AIやIoTなど)を活かして、新しいビジネスモデルや組織編成などを生み出すことです。
デジタル化は既存のものをより良くするもので、DXは新しいものを生み出すことで企業をより良くするものなのです。また、デジタル化の影響は企業内に限定されますが、DXの影響は企業の在り方や社会へも及ぶことがあります。
もちろんDXを行うためにはデジタル化は大前提です。ステップとしては、デジタル化→DXという順番になります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の事例
ホテルや旅館の事例
①老舗旅館
駐車場の自動車ナンバーを認識し、過去の履歴と照合させるテクノロジーを導入。リピーターかどうかを判断し、リピーターであれば、社内SNSで全員に通知する。
フロントスタッフは名前を把握した上でお迎えでき、仲居は顧客情報や過去の履歴をもとに好みにあったサービスを提供できるようになった。
②ホテル
客の入退場を感知するIoTテクノロジーを導入。大浴場を使用した人数が一定数以上になると、スタッフに清掃やメンテナンスを促す通知がいく。効率的に清掃できるようになった。
ホテル以外の事例
①小売り業(カフェ)
モバイルアプリで強化学習のテクノロジーを使って、顧客に最適のオススメ商品を表示。最寄り店舗の在庫や人気商品、顧客の注文履歴からオススメ商品を割り出している。
②農業(みかん農園)
センサーで得られた土中水分量のデータと、ドローンで得られた農園の状況などのデータをクラウドで管理分析。糖度の高いみかんを作る要素を探り当て、栽培に役立てている。
スマホという国民的テクノロジーに注目
ここ10年のスマホの普及率には目を見張る増加がみられます。
総務省によると、世帯ごとのスマホ保有率は下記の通り。
- 2010年 9.7%
- 2014年 64.2%
- 2018年 79.2%
2010年代前半に一気に普及し現在も増加傾向です。今後は、65歳以上の高齢者世代にも普及が広まり、今にどの世代でも持っている国民的テクノロジーになるのは明らかでしょう。
この現状をふまえれば、今後はスマホを主軸においた戦略が不可欠です。
マーケティング、チェックインなどのフロント業務、現場のオペレーションなどあらゆる面において、スマホを活用したDXが可能となります。
スマホ普及によって生まれる新たな顧客ニーズを的確に捉え、期待に応えていく準備をしましょう。
スマホDXに必要な3つの要素
ここではマーケティングにおける、スマホを活用したDXに必要な3要素を解説します。
スマホは、ライフスタイルと密接に関わるツールです。ホテルは今後、顧客のライフスタイルまで加味して戦略的にマーケティングを実施することが求められるでしょう。
1. パーソナライゼーション
パーソナライゼーションとは、顧客のニーズに適切に応えられるように、一人一人へ提供する情報の出し方を分けること。まずは、このパーソナライゼーションが必要です。
近年のスマホユーザーは、自分自身で把握できないほど多くの選択肢を与えられています。いくらあなたのホテルが顧客のニーズを満たしていても、ただそこにあるだけでは、顧客は見つけられないのです。
あなたのホテルは顧客に見つけてもらうために、顧客に関連性のある情報を提供して、競合ホテルの中で目立たなければなりません。
広告やコンテンツに対するエンゲージメントの数や、スマホを通じて得られる顧客データからパーソナライゼーションを実施できるでしょう。
2. インタラクション
また、スマホの注目すべき特徴はインタラクション(顧客からの反応)が得られることです。
例えば、SNS投稿に対するいいねやシェアの数、コメント、ダイレクトメッセージなど。スマホの普及によって、顧客の声を聞く手段は格段に増えました。
このインタラクションを分析して、セールスやマーケティングの新たな知見を得るべきでしょう。
また、過去2年間で、Facebook、WhatsApp、WeChat、チャットボット などは、ホテルのマーケティングに不可欠となっています。これらのインスタントメッセージは、顧客にとって手軽に利用できる身近なツールです。つまり、顧客がホテルにニーズを共有しやすくなり、その結果、ホテルも顧客のニーズに応えやすくなったのです。
現代のデジタル技術のおかげで、顧客は自分のニーズや意見を手軽にホテルに届けられるようになりました。
3. 予約システムもスマホ対応
JTB総合研究所「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2019年)」によると、実に3人に1人が宿泊施設をスマーフォンで予約をしています。
特に、20代・30代の若い世代で顕著にスマホを利用した宿泊施設の予約傾向が見られます。
つまり、今の時代、自社ホテルサイトから直接予約を引き上げよう と思うと、モバイル対応の予約エンジンを組み込みことが欠かせません。
基本はお客様ファースト
どのようなビジネスにおいても、基本は「お客様の悩みや問題を解決する」ことが根底にあります。ホテルというサービス業ならばなおさら。
新しいデジタル技術の導入や抜本的な変革(DX)を検討する際には、それらがどのようにゲストの旅にプラスになるのか、ゲストはどのような反応を示すのかを考える必要があります。
ゲストがホテルに泊まるまでには、どのようなカスタマージャーニーをたどっているのか遡って考えてみてください。
最寄駅からホテルまでの道のりは?どのサイトから予約したのか?どうやって自社ホテルを見つけたのか?はたまた、どの時間帯にスマホを使っているのか?土日休みなのか、シフト制なのか?など…。
もはやホテル業界とはいっても、ゲストの旅行だけを考えるのでは足りません。ライフスタイルを含めたカスタマージャーニーを検討することで、ゲストとのタッチポイントを洗いだし、適切なweb媒体やタイミングでマッチした情報を伝えることが不可欠となっています。
まとめ
ホテルにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、今後必須となるでしょう。
さまざまな業界のDX事例やデジタル技術の進歩に常にアンテナを張り、あなたのホテルのDXの参考としてください。もちろんお客様ファーストの気持ちを忘れずに。
*この記事はBenjamin Devisme氏の協力をもとにWASIMILが翻訳・編集を行ったものです。
オリジナル記事:“What does digital transformation means for hotels?”