ホテルが感覚マーケティングを活用するヒントと注意点
お客様がホテルに求めるものは日々変化し、それに合わせて、ホテルのマーケティングのあり方も変化しています。
そこで、競合ホテルとの差別化を図るために、最近注目されているのが、顧客の五感に訴える「感覚マーケティング」です。
- 感覚マーケティングとは何なのか?
- どのような効果が期待できるのか?
- ホテルのマーケティングにどのように活用できるのか?
具体的な事例を挙げながら、ホテルにおける感覚マーケティングについて解説してきます。
感覚マーケティングとは?
感覚マーケティングとは、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の五感に訴えるマーケティング手法で、「五感ブランディング」とも呼ばれています。
例えば、Mood Media社が10カ国の消費者を対象にした調査では、
- 90%が、BGMやビジュアル的な要素、香りを活用している店舗に、再び訪れる可能性が高い
- 78%が、店内の雰囲気の良さが、eコマースではなく、実店舗に足を運ぶ際の判断材料になる
という結果が出ています。
また、感覚マーケティングを積極的に取り入れているダンキンドーナッツが、韓国ソウルで下記のような実験をしたところ…
- バスのスピーカーからダンキンドーナツの広告を流す
- ダンキンドーナツのコーヒーの香りを漂わせる
- バスがダンキンドーナツの店舗の近くのバス停に停車する
ソウルでのコーヒーショップへの訪問者は16%増加し、ソウルのバス停付近のダンキンドーナツの売上は29%増加するという結果に。
五感を刺激するマーケティングが、顧客の意思決定に影響を与えていることがうかがえますよね。
では、ホテルのマーケティングに活用する場合、具体的にどのような施策が可能なのでしょうか?
ここからは、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚、それぞれの感覚に訴えるマーケティングの効果や事例、ホテルで取り入れられる施策案をご紹介していきます。
香りによるホテルマーケティング
ホテルが活用できる感覚マーケティングの1つめは、嗅覚(香り)によるマーケティングです。
嗅覚は、五感の中で最も古い感覚で、人間の記憶に強い関わりを持っています。
そのため、香りによるマーケティングは、顧客の記憶に訴える「記憶のマーケティング」とも呼ばれています。
例えば、なにかの香りを嗅いだときに、ふと昔の記憶や感情がフラッシュバックしたことありませんか?
これは、「プルースト効果」と呼ばれる現象です。
このプルースト効果を利用して、「◯◯の香り=あなたのホテル」というように、ホテルをブランディングをすることができます。
活用例
香りによるマーケティングは、ホテルでもっとも多く活用されている、効果的な感覚マーケティングといえるでしょう。
代表的なところでは、ウェスティンホテルズ アンド リゾートのシグネチャーフレグランス「ホワイトティー」を使ったブランディング戦略が挙げられます。
世界中のウェスティンホテル、どこに行っても、爽やかなホワイトティーの香りで出迎えられ、客室のアメニティも同じ香りで、
「ホワイトティーの香り=ウェスティンホテル」
というイメージの確立に成功しました。
ウェスティンホテルのフレグランスは販売もされているため、お客様が自宅で使う度にウェスティンホテルを思い出す、という効果も期待できます。
FB部門のプロモーションに活用
さきほどご紹介したダンキンドーナツのように、食事の香りでお客様を惹きつけるというのもシンプルですが、効果的な方法です。
焼きたてのパンの匂いにつられてお店に入ってしまった、スーパーマーケットの実演販売のソーセージの匂いにつられて、ついつい商品を買ってしまった、なんていう経験はありませんか?
このように、香りを使って、ホテルのカフェや朝食レストランなどのプロモーションを仕掛けることも可能です。
最近では、このような香りのマーケティングを専門に行う会社も増えてきています。
視覚に訴えるホテルマーケティング
ホテルが活用できる感覚マーケティングの2つめは、視覚(ビジュアル)に訴えるマーケティングです。
「産業教育機器システム便覧」(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)によると、五感による知覚の割合は下記のようになっています。
- 味覚1.0%
- 触覚 1.5%
- 臭覚 3.5%
- 聴覚 11.0%
- 視覚 83.0%
また、視覚・聴覚・言語で情報を伝達できる割合を示す「メラビアンの法則」によると、話し手から聞き手に与える影響は、
- 視覚:55%
- 聴覚:38%
- 言語:7%
とされているので、目から得る情報がもっとも多いことがわかります。
これまでのマーケティングにおいても、視覚に訴えるマーケティングが大部分を占めていました。
ホテルの館内・客室内のインテリアや色合い、ウェブサイトのデザインなどは、顧客の潜在意識に働きかける重要な要素であることに変わりはありません。
しかし、競合ホテルとの差別化を図るためには、平面から立体へ。静止画像から動画へと、視覚マーケティングを進化させていきましょう。
例えば、最近のコンテンツマーケティングは、静止画や文章より、動画を活用する傾向にあります。
また、コロナ禍で、様々な視点や観点から対象物が見られる「バーチャル・リアリティ」が、今まで以上に注目されているのも特筆すべき点です。
活用例
アメリカ・ダラスのリユニオン・タワーでは、バーチャル・リアリティ・アプリ「Reunion Tower VR」を使って、上空560フィート(約170m)からダラスのスカイラインを360度見渡せるようにして、感覚マーケティング戦略を強化しました。
ホテル業界におていも、公式サイトに360度カメラで撮影した写真を掲載するホテルが増加。
ホテルのコンセプト動画や、チェックインからチェックインまで撮影した「バーチャル・ツアー」によるプロモーションも盛んに取り入れられています。
ホテルのコンセプト動画の例
このようなアプローチは、従来の静止画像以上に、顧客に臨場感を与えられるだけでなく、動画の場合は、視覚と同時に聴覚に訴えるマーケティングを行うことが可能です。
360度カメラによる写真や、コンセプト動画をすぐに実現するのは難しいという場合は、あなたのホテルのSNSアカウントに、画像の代わりに短い動画を投稿することから始めてみましょう。
例えば、SNSでお料理のプロモーションをするときに、お料理画から立ち上がる湯気や音が楽しめる動画、または、そのお料理を楽しむ人たちを撮影した短い動画を写真の代わりに投稿すれば、より美味しさが伝わりますよね。
音を利用したホテルマーケティング
ホテルが活用できる感覚マーケティングの3つめは、音(聴覚)を利用したマーケティングです。
USENが実施した「BGMのテンポによってお店での購買行動が変わるのか」という検証実験から、BGMのテンポが買い物の所要時間(滞在時間)、購入金額、感情、さらには、店に対する印象などに影響することがわかります。
一般的に遅いテンポのBGMでは、店内での滞在時間が⻑くなり、逆に、速い店舗のBGMでは、滞在時間が短くなる傾向があるようです。
また、Mood Media社の調査では、不自然に音のない環境では、ネガティブな感情を抱く消費者が17%増えるという結果が出ています。
活用例
コンビニやファストフード店では、速いテンポのBGMを流すことで、回転率を速めることが期待できます。
一方、ホテルのように、お客様にリラックスしていただきたい場所では、ゆっくりした曲を流すのがおすすめです。
なかでも、クラシックやジャズが、もっともリラックス効果が高いといわれています。
とはいえ、心地よいと感じる音楽の種類や音量は、年代や性別などの顧客層によって異なるため、ある程度ターゲット層を絞る必要があります。
ファッションブランド「アバクロンビー&フィッチ 」の店舗では、大音量のBGMを流す独特な演出で知られていますが、これもブランドの客層である若い世代にターゲットを絞った聴覚マーケテティングの戦略なのです。
ラグジュアリー層向け、家族向け、カジュアルな若者向けなど、ホテルのコンセプトによって、BGMを検討してみましょう。
味によるホテルマーケティング
ホテルが活用できる感覚マーケティングの4つめは、味(味覚)によるマーケティングです。
味覚は、実は純粋な味だけではなく、食器や香り、照明、価格など、様々な要因に影響を受けています。
例えば、同じワインをワイングラスとマグカップにそれぞれ入れて飲んでみると、ワイングラスの方がおいしいと感じますよね。
NHK健康チャンネルが番組内で実施した実験では、まったく同じ料理でも、料理の名前をおいしそうなものに変えるだけで、食事に満足する人の割合が60%から87%へと上昇しています。
これは、「おいしい」という判断に、脳が深く関わっているからなのです。
「おいしい」を感じる言葉(シズルワード)は、年代や性別などにより傾向が異なるので、ホテルのFB部門のマーケティングを考える際は、よりターゲット層に訴える言葉を選ぶことも重要なポイントになります。
活用例
ホテルのレストランやルームサービスのメニューから、料理のおいしさが想像できるように、味を「見える化」しましょう。
アメリカの心理学・行動経済学の教授であるダン ・アリエリーも、自身の著書で、つぎのように記しています。
”前もっておいしそうだと信じたときは、たいてい、やはりおいしいということになり、まずそうだと思ったときは、やはりまずいということになる。”
(引用元:ダン・アリエリー著『予想どおりに不合理』)
料理の写真に加え、文章で脳に料理の情報を伝えることで、よりお客様の味覚に働きかけることができます。
また、宿泊のお客様へのウェルカムギフトとして、ホテルのシグネチャースイーツを提供してみるのはいかがでしょうか?
味は、舌からの味覚だけでなく、鼻からの嗅覚からも感じるものです。
嗅覚が記憶に関係していることは、香りによるマーケティングのところで説明したとおり。
ホテルのシグネチャースイーツの味で、お客様の宿泊体験をより記憶に残るものにできるかもしれません。
触感によるホテルマーケティング
ホテルが活用できる感覚マーケティングの5つめは、触感(触覚)によるマーケティングです。
コロナ禍で、オンラインショッピングのトレンドが加速したとはいえ、大部分の消費者が実店舗で買い物をしたいと考えています。
InternetRetailingによると、消費者の82%が、購入前に商品を実際に目で見て、手で触れたいと考えているとのこと。
例えば、イギリスのスーパーマーケットASDAでは、自社ブランドのトイレットペーパーを袋から出して触れるようにしたところ、売上が1.5倍に上昇。
製品を実際に手にして体験できる、体験型の実店舗を維持しているアップルストアなども、感覚マーケティングをうまく取り入れた成功例といえます。
活用例
触覚マーケティングの例として、よく名前が挙がるのが、シンガポール発のシーフードレストランDancing Crab(ダンシング・クラブ)。
ダンシング・クラブでは、蟹や海老、貝などを丸ごとテーブルの上に広げて、そのまま手づかみで食べるのが特徴です。
手で直接触れることで、料理の味だけでなく、食材の触感などの情報が脳に伝わり、よりおいしく感じられます。
このアイディアは、ホテルのFB部門でも役立てられるのではないでしょうか?
客室部門でも、ベッドリネンやタオル、バスローブに、肌触りの良い素材を使用することで、宿泊体験をより良いものにし、顧客満足度を向上するのに役立ちます。
感覚マーケティングの重要ステップは顧客を知ること
ホテルが感覚マーケティングを取り入れるとき、注意しなければならないのが、すべての施策が万人受けするわけではないという点です。
心地よいと感じる香りや音楽、シズルワードなどは、顧客層によって好みの傾向が異なります。
効果的な感覚マーケティング戦略を行うためのカギは、パーソナライゼーションです。
まずは、あなたのホテルが、どのような客層をターゲットとしているのかをしっかり把握することから始めましょう。
CRMの活用でターゲティングを効率化
感覚マーケティングに限らず、ホテルのマーケティング活動において、ターゲティングは非常に重要なベースです。
ターゲティングを間違えてしまうと、マーケティングが成功しないだけでなく、コストの無駄やホテルの集客に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。
ここで大切なのは、できるだけ正確なデータをもとにすることです。
CRM(顧客情報管理システム)を活用すれば、データをもとにした顧客のセグメント化やペルソナの設定が簡単にでき、ターゲティングが効率化されます。
ペルソナとは?
ペルソナとは、架空のユーザー・顧客像という意味です。
顧客情報をもとに、こまかな特徴の設定をして、あたかも実在の人物化のようなペルソナを作成することが、効果的なマーケティングの重要なステップになります。
ペルソナの重要性や設定方法については、こちらの記事をどうぞ。
ホテルシステムWASIMILは顧客のセグメント機能が充実
WASIMILのCRM(顧客情報管理システム)は、年齢や性別だけでなく、過去の滞在回数、最終滞在月、都道府県、予約ソースなど、25以上の基準で顧客リストをフィルタリングする機能を搭載しています。
そのため、ハイパー・パーソナライズされた感覚マーケティング戦略を行うことが可能です。
また、自動データクレンジング機能により、メールアドレスや電話番号、名前などの入力フォーマットが自動的に統一されるため、常に正確で充実した顧客データが活用でき、適切なターゲット設定に役立ちます。
どのお客様に、どのような感覚マーケティング施策を行い、どのような反応があったのかは、WASIMILのメモ機能を活用して記録し、スタッフ間の情報共有や、今後のマーケティングに活かしましょう。
まとめ
今回は、感覚マーケティングの効果や、ホテルでの施策案についてお伝えしてきました。
従来のままの戦略を続けるだけでは、競合ホテルとの差別化を図ることはできません。
もう一歩踏み込んで、お客様の五感に訴える、記憶に残るマーケティングを取り入れていきましょう。
効果的な感覚マーケティングを行うためには、まずは、顧客を知ること。
CRMを活用して、あなたのホテルのターゲット層をしっかり特定することが大切です。