小規模ホテルが民泊との競争に勝つためには?競合から学ぶホテルの集客戦略
民泊(バケーションレンタル)は、小規模ホテルの集客に影響するのでしょうか?
Airbnbに代表される民泊は、海外ではすでに一般的な宿泊スタイルとして浸透しています。
日本国内でも、インバウンド需要の急増を背景に、民泊ブームが起こったのは記憶に新しいところでしょう。
これまで民泊といえば、主に訪日外国人旅行者が利用するイメージが強かったかもしれません。
しかし最近では、民泊がより身近な存在になりつつあります。
ただ空き部屋を貸すだけでなく、ユニークな宿泊体験やラグジュアリーな宿泊空間を提供する民泊が注目されるようになり、ホテルと民泊の垣根は低くなりました。
Googleトラベルでも、一部地域で、ホテルと民泊の検索結果が一緒に表示されるようになっています。
またコロナ禍をきっかけに、Airbnbなどの大手民泊サイトが、ステイケーションやワーケーションといった国内の旅行トレンドをターゲットに見据えたことも、小規模ホテルとの競合の可能性を示しているといえるでしょう。
カーネギーメロン大学の研究者が執筆した「シェアリングエコノミーにおける競争力のあるダイナミクス:Airbnbとホテルのコンテキストでの分析」の中でも、Airbnb(民泊)は、特に低価格帯のホテルの収益を奪うという結論が出ています。
競争優位に立つためには、誰が競合なのかを知り、分析することが不可欠です。
そこでこの記事では、小規模ホテル・旅館の競合となり得る民泊(バケーションレンタル)とホテルのメリット・デメリットを比較しながら、集客施策のヒントを解説していきます。
民泊(バケーションレンタル)とは?
民泊(バケーションレンタル)とは、旅行者に個人宅の空き部屋や空き別荘、投資物件などを有料で貸し出す宿泊ビジネス形態です。
以前からあった宿泊スタイルではありますが、2008年にAirbnbが民泊サイトを創設して以来、世界中で急速にシェアを伸ばしています。
日本にも2014年にAirbnbが上陸したことから、民泊の認知度がいっきにアップ。空き家問題や宿泊施設不足への解決策として注目されました。
しかし民泊ブームの一方で、従来の旅館業法の要件を満たさない民泊、いわゆる違法民泊が増加する事態が発生してしまったのです。
そこで、2018年に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、国内での民泊ビジネスが本格解禁となりました。
最近では、楽天やじゃらんnet、一休.comといった大手の国内OTAも軒並み民泊(バケーションレンタル)の予約サービスを提供しており、Airbnb以外の民泊サイトも多く見られます。
旅館業法と住宅宿泊事業法(民泊新法)の特徴
先ほどもお伝えしたとおり、民泊は、ホテル(旅館業法)とは異なり、住宅宿泊事業法(民泊新法)の対象になります。
民泊新法には、
- 安全面・衛生面の確保が十分にされていない
- ゴミ出しルール、騒音などによる地域住民とのトラブル
といった、民泊の問題点を解消するための内容が規定されていますが、旅館業法との最大の違いは、年間の営業日数に制限が設けられている点です。
国土交通省では、住宅宿泊事業を下記のように定義しています。
”旅館業法第3条の2第1項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないものをいいます。”
一般に、民泊の「180日ルール」と呼ばれるもので、例えばairbnbでは、予約泊数が180泊を超えると、自動的に掲載が非公開になります。
その他のホテル(旅館業法)と民泊(住宅宿泊事業法)、および特区民泊(国家戦略特区法)のおおまかな違いは下記のとおりです。
ただしこれは、あくまでも法律で定められたルールに過ぎません。
自治体によっては、さらに独自のルールを設定した「上乗せ条例」が存在することもあります。
例えば、法令上ではフロントの設置義務はないとされていても、条例により設置が義務づけられているケース。また、民泊の年間営業可能日数が180日より少なく決められていたり、住専地域での営業規制などが代表的です。
民泊の顧客層
民泊の利用者は、コロナ禍以前(2019年)は、外国人旅行者が宿泊者の7割を占めていました。
しかし2022年の最新の環境庁のデータでは、日本国籍者が94.4%、外国人が5.6%となっています。
比較的若い年齢層の利用が多く、Airbnbによると、宿泊者の約6割はミレニアル世代とのことです。
また最近では、一棟貸しタイプなど、家族旅行客をターゲットにした集客に力を入れる民泊も多く見られます。
日本国内での民泊の現状
コロナ禍でインバウンドが途絶えたことにより、民泊は大きな打撃を受けました。
宿泊実績はコロナ禍前の約8割減、事業廃止の届け出件数も増えています。
しかし、ステーケーションやワーケーション、三密回避といった旅行トレンドを取り入れたことや、民泊の課題とされていた衛生面や安全面の改善に努めたことが功を奏したのか、民泊の需要は回復傾向を見せ始めました。
2022年3月14日時点の観光庁のデータによると、全国の宿泊者数の合計は148,530人で、前年同期158.2%となっています。
世界的に見ても、Airbnbの近場の予約が倍増し、今夏の予約は、コロナ禍前と比べて25%以上も上回っているとのことです。
小規模ホテルと民泊のメリット・デメリットを比較
では、ホテルではなく民泊を予約する理由とは、何なのでしょうか?
三菱リサーチ&コンサルティングが実施した「民泊サービスの利用状況に関するアンケート」の「民泊サービスの利用理由」「今後民泊を利用したくない理由」の結果をもとに、民泊のメリット・デメリットをまとめました。
民泊のメリット
民泊の主なメリットには、次のような点が挙げられます。
- 宿泊費が安い
- 立地が良い
- 大人数で滞在しやすい
- 長期滞在しやすい
- 特別な体験ができる
- 一棟貸し切りにできる
- 提供者(ホスト)と交流できる
やはり、民泊はホテルや旅館と比べて、宿泊費の安いというイメージが強いようです。
特に、家族旅行など、大人数で滞在する場合は割安になるというのがメリットでしょう。
また、農家民泊や寺院の宿坊など、体験型ツーリズムが楽しめる民泊も人気を集めています。
民泊のデメリット
一方、民宿の主なデメリットはつぎのとおりです。
- 衛生面で不安がある
- プライバシーの確保に不安がある
- 宿泊費用がそれほど安くない
- 安全・防犯面で不安がある
- 何か問題が生じたときの対応等に不安がある
- サービスの品質にばらつきがある
- スタッフ等が常駐していない物件もあり不安である
民泊は、ホテルや旅館とは異なり、清掃のスタンダードが確立されていません。
そのため、宿泊施設によって、清潔さに当たり外れがあります。
もうひとつ、民泊のデメリットとして、よく指摘されるのが安全・防犯面です。
民泊には、ホテル・旅館のようにスタッフが常駐していることが少なく、問題が起こったときの対応に不安を感じる宿泊者は少なくないでしょう。
ほかにも、手軽さや快適さを求める宿泊客にとっては、アメニティを自分で持ち込まなければならない場合が多かったり、ルームサービス等のサービスが受けられないという点もデメリットになるかもしれません。
ホテルの最大の強みは「ホスピタリティ」と「安心感」
アンケート結果から、民泊よりもホテル・旅館に宿泊したいと思わせる最大の要因は、ホテルのホスピタリティと安心感であるといえるでしょう。
ホテルが競合の民泊に差をつけるためには、強みである安心感・信頼感、そして宿泊体験をより良いものにするためのサービスをアピールしながら、民泊のメリットも取り入れていくことが大切です。
民泊に差をつける小規模ホテルの集客アイディア
民泊のメリット・デメリットをふまえた、小規模ホテルの集客施策例をご紹介します。
【民泊に差をつける集客アイディア】
- セキュリティ対策で安心感を与える
- 事前メールで信頼関係を構築
- ルームサービスにモバイルオーダーを導入
- こだわりのアメニティやリネンを使用
- ホテルの快適さ+体験型ツーリズム
- 少人数グループが同じ客室に宿泊できる大部屋プラン
- 客室のアップグレードなどホテルならではの特典
では、ひとつずつ説明していきます。
1.セキュリティ対策で安心感を与える
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の1つめは、セキュリティ対策を強化して宿泊客に安心感を与えることです。
防犯・安全面の不安は、民泊のデメリットとして最も多く挙げられています。
宿泊客の信頼を獲得するために、下記のようなセキュリティ対策の導入を検討しましょう。
- スマートロック
- 防犯カメラ
- セイフティーボックス
- アクセスコントロール
スマートロック
防犯のために、物理的な鍵ではなく、スマートフォンの専用アプリなどで客室ドアの施解錠ができるスマートロックを導入するホテルが増えてきています。
スマートロックは、鍵の盗難や複製、ピッキング、鍵の閉め忘れなどの防止に役立つだけでなく、チェックインを自動化することで、業務効率化にも役立ちます。
防犯カメラ
チェックインの自動化により、フロント業務を効率化、または無人化を検討している小規模ホテルにとって、防犯カメラの設置は必須です。
防犯カメラは、犯罪やクレーム等のトラブルの証拠をとらえるのはもちろん、犯罪抑止効果も期待できます。
セイフティーボックス
客室に貴重品を保管できるセイフティーボックス(貸金庫)を設置しましょう。
これには、宿泊客の貴重品を守るだけでなく、万が一盗難被害が起こった際に、自社のスタッフを守る目的もあります。
アクセスコントロール
アクセスコントロールとは、施設への出入りを制御することを意味します。
例えば、デジタルキーなどで、夜間に部外者が館内、もしくは客室フロアに入るのを制限することが可能です。
2. 事前メールで信頼関係を構築
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の2つめは、宿泊前にメールを送信して、宿泊客との信頼関係を構築することです。
民泊のトラブルとして、民泊物件の場所がわからない、ホストと連絡が取れないといった話もよく耳にします。
民泊は比較的新しい宿泊サービスであることや、基本的に個人とのやり取りになるため、チェックインするまで安心できないという心情は理解できますよね。
そこであなたのホテルにおすすめしたいのが、カスタマージャーニーに合わせたメールを送信して、お客様とコミュニケーションを取ることです。
予約完了の確認メールは言うまでもなく、簡単な希望アンケートやホテルの施設案内、周辺地域の観光情報などを送信し、ホテルへの信頼感を高めましょう。
同時に、お客様は宿泊への期待値が高まるため、宿泊キャンセルの予防にも効果的です。
このようなカスタマージャーニーに合わせたEメールマーケティングは、一見、面倒に思えるかもしれません。しかし実際には、簡単に自動化することができます。
セグメントされたメールマーケティングの実践方法については、「ホテルが閑散期を乗り切るためのマーケティング戦略3つの施策」で解説しています。
3.ルームサービスにモバイルオーダーを導入
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の3つめは、ルームサービスにモバイルオーダーを導入することです。
ルームサービスは、民泊にはないホテルの手軽に楽しめる贅沢のひとつです。
そのルームサービスを、わざわざフロントに電話をすることなく、スマートフォンで気軽にオーダーできるようにしてみてはいかがでしょうか?
最近では、ルームサービスのメニューにAR(拡張現実)を取り入れるホテルも登場しています。
4.こだわりのアメニティやリネンを使用
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の4つめは、アメニティやリネンを使用することです。
自然派ブランドのアメニティやオーガニックコットンのリネンなど、よりリラックスして滞在できるような工夫をしましょう。
ただしその際には、サステナビリティへの配慮が重要です。
2022年4月からは「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行され、人々のサステナビリティへの関心はますます高まっています。
例えば、使い捨て歯ブラシは竹製を採用したり、シャンプー類はポンプ式にするなどの方法が考えられます。
ホテルオリジナルのアメニティやバスローブなどを販売するのも、一つのアイディアです。
5.ホテルの快適さ+体験型ツーリズム
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の5つめは、ホテルの快適さと体験ツーリズムを組み合わせることです。
民泊のメリットにも、特別な体験(体験型ツーリズム)が挙げられていました。
小規模なホテル・旅館でも、地域ビジネスと提携することで、農業体験や伝統文化体験などを宿泊客に提供することができます。
そして体験型ツーリズムの中でも、近年勢いを見せている例が「グランピング」です。
競合施設との差別化のために、ホテル・旅館がグランピング施設を併設するホテル・旅館も増えています。
ホテル・旅館のグランピングによる集客アイディアについては、こちらの記事をどうぞ。
6.少人数グループが同じ客室に宿泊できる大部屋プラン
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の6つめは、家族旅行などのグループが一緒に滞在できる客室プランの提供です。
AirbnbのCEOブライアン・チェスキー氏は、自身のライブ配信で、近距離の旅行(ステイケーション)のトレンドとあわせて、家族旅行の需要拡大についても言及しています。
なぜなら人々は、コロナ禍で、家族や友だちと旅行ができなかった分を取り戻したいと願っているからです。
ところが通常は、大人数で旅行をする際、ホテルに宿泊すると部屋が別々になってしまいます。
一方、民泊の場合、一棟貸しタイプや部屋数の多い物件を予約すれば、家族・友だちと一緒に滞在することが可能です。
あなたのホテルが、家族旅行や卒業旅行などに出かける顧客層をターゲットにするのであれば、4人〜6人ほどが同じ客室に宿泊できるプランは集客に役立つでしょう。
7.客室のアップグレードなどホテルならではの特典
民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策の7つめは、ホテルならではの特典を提供することです。
例えば、客室のアップグレードや無料朝食、ジム・プールへのアクセス、スパトリートメントの割引など、民泊にはない特典で、特別感をアピールすることができます。
また、ホテル独自のロイヤルティプログラムを作成すれば、リピーターの獲得にもつながります。
その際には、CRM(顧客情報管理システム)で顧客情報を分析して、パーソナライズされた特典をすることがポイントです。
ホテルの集客戦略の第一歩は顧客を知ること
どのような施策で集客をしていくのか、また、どの宿泊施設が競合なのかを理解するためには、まずは、あなたのホテルの顧客セグメントを正確に把握することが必要です。
WASIMILのCRM(顧客情報管理システム)では、デモグラフィック、滞在回数、利用したプラン、販売チャネルなどのデータに基づいた顧客セグメントを作成できます。
セグメントごとに作成したキャンペーンは、WASIMILのEメールマーケティングツールを活用すれば、ターゲット層のみに配信することも簡単です。
また、民泊に差をつける小規模ホテルの集客施策で紹介した「カスタマージャーニーに合わせた事前メール」も、設定したスケジュールで自動送信できます。
効果的な価格戦略には競合分析が不可欠
ホテルより民泊を選ぶ理由として一番多いのは、宿泊料金です。
あなたのホテルの客室料金が、競合の民泊の価格と比べてあまりにも高いと、お客様に敬遠され、集客力が低くなってしまう可能性があります。
ただし、必要以上の値下げは、賢明なレベニューマネジメントとはいえません。
客室料金を決める際には、様々な要素が重要になりますが、「コンプセット」の平均価格や価格変動を参考にすることが欠かせません。
コンプセットとは?
コンプセット(コンペティティブセット)とは、近隣にある競合宿泊施設のことです。
通常、5〜6施設を選定して1つの「セット」を作成します。
コンプセットを作成したら、競合施設の客室料金の変動をモニターするのはもちろん、競合施設のニュースレターに登録して最新のキャンペーン情報を受け取ったり、Googleアラートで競合の情報に役立つキーワードを設定するなどして、あなたのホテルのレベニューマネジメントに活用しましょう。
コンプセットの作成方法
コンプセットを作成するには、まずは、あなたのホテルの特徴や強みをリストアップし、近隣の宿泊施設の特徴と比較していきます。
【比較ポイントの例】
- 近隣にある宿泊施設はどこか?
- 客室の広さは?
- 同じような顧客層をターゲットにしているのは?
- 同じような価格帯の宿泊施設は?
- ジム、プール、レストランなどの館内施設はあるか?
その際に、ホテルや旅館だけでなく、民泊にも目を向けてみましょう。
コンプセットに含まれる施設数は、あまり多く選定しすぎると、分析作業が大変になります。
どんなに多くても10施設まで、はじめのうちは3つほどでもいいでしょう。
ビジネス・インテリジェンス(BI)で収益管理を効率化
レベニューマネジメントは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)で効率化できます。
客室料金の決定は、非常に手間と時間がかかる作業です。
しかし、中小規模のホテル・旅館では、専任のレベニューマネージャーが在籍しておらず、宿泊部長などが兼任しているというケースも珍しくありません。
手作業でのレポートの作成や分析に時間を割かれて、肝心の値付けの意思決定にかける時間が少ないと悩んでいるホテルはビジネス・インテリジェンス(BI)を活用しましょう。
BIにより、これまでマニュアルで行っていた煩雑な作業が自動化され、より効率的な価格戦略が実現できます。
まとめ
この記事では、民泊(バケーションレンタル)のメリット・デメリットから分析した、小規模ホテルの集客施策のヒントをお伝えしてきました。
コロナ禍でインバウンド需要が激減した中で、民泊は、国内旅行のトレンドに焦点を合わせることで、回復傾向を見せています。
以前は、「ホテルと民泊はマーケットが異なるため競合しない」という考えが一般的でしたが、状況は変わってきました。
あなたのホテルと競合する民泊はないか、調査してみる価値はあるでしょう。
そして、競合施設を分析することで、お客様にあなたのホテルを選んでいただくために、どのようなことができるのかを検討していきましょう。